ターミナルケアにおける訪問看護師の役割

コロナウイルスが蔓延した頃、一度入院したら最後の最後まで面会できないまま亡くなるケースや、亡くなった後もエンゼルケアなどができないままご遺体が納体袋へ納められ、火葬場へと直行となった話を幾度となく耳にしました。
在宅でのターミナルケアの流れが加速してきたのもこの頃からではないでしょうか。
安心して在宅療養生活を過ごしていただき、利用者が自分らしく最期の時をご自宅で迎えることが出来る様にするためにはどうしたらよいのでしょうか。
 

ターミナルケア(終末期医療)とは

終末期とは、老衰や疾病、障害などの進行によって、あらゆる医療がすでに効果的でなく、余命が数ヶ月以内と判断された後の時期を指します。
その終末期に行われる医療が、すなわち終末期医療、ターミナルケアです。
ターミナルケアでは基本的に延命を目的とした治療はしません。利用者の身体的・精神苦痛を取り除き、平穏に過ごせるよう生活の質の維持または向上を目指した処置がなされます。病院やホスピス以外に、介護施設や在宅でも行われます。
患者自身が自分らしく最後を迎えるためには、家族はもちろん訪問看護師をはじめとした地域の協力が不可欠です。
 

「緩和ケア」と「ホスピスケア」

ターミナルケアと似た概念を持つ言葉で「緩和ケア」と「ホスピスケア」があります。
それぞれ患者に提供される医療や支援の形態ですが、それぞれに異なる側面を持っています。

ホスピスケア(Hospice Care)
ホスピスケアは、ターミナルな病気(がんなど不治で有効な治療法がなく、患者を死に至らしめることが予測される進行性で悪性の病気のこと)に苦しむ患者とその家族に対して提供される包括的なケアの形態です。
患者が余命数ヶ月から数週間しかない場合に提供されることが一般的です。
ホスピスケアは、症状の緩和、精神的な支援、家族への助言とサポートなどを含む多岐にわたるケアを提供します。

緩和ケア(Palliative Care)
緩和ケアは、治療が可能な段階であっても、深刻な病気に苦しむ患者に提供される総合的なケアの形態です。
ターミナルケアやホスピスケアとは異なり、患者が治療を受け続ける場合も含まれます。
痛みやその他の症状の管理、精神的なサポート、家族への情報提供などが含まれます。

簡潔にまとめると、ターミナルケアは終末期にある患者が亡くなることが予測される段階に焦点を当て、ホスピスケアはその中でも特に余命が短いと予測される場合に提供され、緩和ケアは治療が可能な段階でも提供される包括的なケアになります。
 

グラフで分かる訪問看護でのターミナルケアの実施推移

下のグラフを見て分かるように訪問看護ステーションにおけるターミナルケアの利用者数は介護保険、医療保険共に年々増加傾向か続ており、特に令和3年度は急増しているのが分かります。要因の一つとしてコロナウイルス蔓延の影響で病院ではなく在宅でのターミナルケアを望むご家族が増えたことが予想されます。

【訪問看護ステーションにおけるターミナルケア利用者数】


厚生労働省 訪問看護(改定の方向性)より転載
(注)ターミナルケア加算とは、基準に適合している指定訪問看護事業所が、在宅で死亡した利用者に対して、その死亡日及び死亡日前14日以内に2日(死亡日及び死亡日前14日以内に当該利用者(末期の悪性腫瘍その他厚生労働大臣が定める状態にある者に限る。)に対して訪問看護を行っている場合にあっては、1日)以上ターミナルケアを行った場合(ターミナルケアを行った後、24時間以内に在宅以外で死亡した場合を含む。)に加算する。(区分支給限度基準額の算定対象外)
 

病院でのターミナルケアと訪問看護でのターミナルケアの違い

病院でのターミナルケアと訪問看護でのターミナルケアにはいくつかの違いがあります。

医療的ケア 病  院 専門的な医療ケアを提供できるため、必要に応じて検査、投薬ができ24時間体制での緊急時の対応などが可能です。
訪問看護 訪問看護は、患者の自宅でのケアを主体とするため、医療的な機器や緊急時の医療対応は限定的ですが24時間連絡できる体制を確保し、必要に応じて訪問できる体制をとっている事業所もあります。
家族との時間 病  院 家族は通常、患者の病室で面会できますが、患者との時間は限られることがあります。また、非常時には面会が制限されることもあります。自宅からの距離が遠いと家族が最期の時に間に合わないことも。
訪問看護 家庭環境での訪問看護では、家族がより密接に患者と接し、日常のケアに参加することが一般的です。家族もすぐそばで見守ることが出来るので安心して過ごすことができます。
環境の快適さ 病  院 面会時間、消灯時間、食事内容など病院のルールのなかで生活しなければならないので自由度が低くなります。また、入院費用や、お見舞いに行く際の交通費など金銭的負担も大きくなります。
訪問看護 住み慣れた自宅での療養の為、比較的リラックスした環境で最期を迎えることができます。
家族が24時間急変に備えていなければならないので気が休まらず家族の負担は大きくなります。

 

在宅でターミナルケアをするということ

「ターミナルにおける看護師の看取りの満足感に関する研究」において訪問看護師の「見取りの満足感」は、在宅に訪問し、患者・家族に関心をよせ、責任を持ったケアを提供し、その人らしい最期に関われることが影響を受けているという研究結果が発表されました。
同研究で病院勤務看護師の「看取りの満足感」は、看護業務満足度に影響するという結果に。

この研究結果からも分かるように訪問看護でのターミナルケアは病院でのケアに比べ人として家族に寄り添い関係性を育むことがより必要とされます。
ターミナルケアを行ううえで大切なのは、ご利用者の「最期はこうありたい」という思いを尊重し、それを叶えるためにご利用者の人生経験や価値観などを十分に把握し、必要なケアが提供される環境を整えていくこと。一人の看護師としてその人の生活、人生に関わっていく事だと思います。
 

まとめ

訪問看護の利用者は、介護保険、医療保険ともに増加傾向であり、介護保険では約64.1万人(令和3年6月審査分)、医療保険では約38.0万人(令和3年6月審査分より推計)となっています。このうち、ターミナルケアの利用者数は近年増加傾向にあり、特に令和3年度は介護保険・医療保険ともに顕著に増加しています。

近年では在宅医療を推進するため、ターミナルケアの実施や重症児の受入れを積極的におこなう機能強化型訪問看護ステーションに対しては算定要件を満たしていれば「機能強化型訪問看護療養費」が加算される仕組みができ、2021年度の介護報酬改定ではターミナルケアや看取り期における頻回なサービスや対応の充実を適切に評価できるよう、ターミナルケアや看取り期における利用者に訪問介護を提供する場合に、いわゆる2時間ルールの運用を弾力化し、2時間未満の間隔で訪問介護が行われた場合は、所要時間を合算せずにそれぞれの所定単位数の算定できるようになりました。これらターミナルケアに国の後押しはこれからも続くと予想されます。これからますます高齢化が進む中、自宅でのターミナルケアは当たり前になっていく時代が来るのではないでしょうか。
※訪問介護の2時間ルール
「同じ利用者に対して同日中にサービスを2回以上提供する場合、その間隔が2時間未満であればひとつのサービスとみなす」とするルール


厚生労働省 訪問看護(改定の方向性)より転載

<参考>
・訪問看護(改定の方向性)|厚生労働省
・ターミナルにおける看護師の看取りの満足感に関する研究
 

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